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研究職の狭き門 製薬のプロジェクトマネジャーのお仕事(1)

げんさん (35歳)

新卒で日系の中堅製薬企業に入社された後、外資系の製薬業界に転職され、プロジェクトマネジャーとして働いていらっしゃいます。
本業のかたわら、NPO法人アスデッサン (このメディアの運営団体) にも正会員として関わられています。


プロジェクトマネジャーってどんな仕事?

──これまでのキャリアと、今のお仕事の内容を教えてください。

国立の大学の薬学部、大学院を卒業後、日系の製薬企業に入社しました。そこで約6年間働いた後、外資系の製薬企業に転職しました。

今の会社では研究開発をしています。入ってみて気づいたんですけど、製薬企業といっても、いろんな仕事があって。実験室みたいなところで実験をする「基礎研究」とか、つくった薬を動物に投与して効果を実験する「非臨床研究」とか。そして、動物で薬の効果が確認された後、人を対象にした「臨床研究」に進むことになります。その後、規制当局(厚生労働省)につくった薬が承認されたら、ようやく営業の人とか学術的な情報を提供する人とかに、ステージが移っていきます。

その中で私は、研究開発のプロジェクトマネジャーっていう仕事をしています。薬は、ほんとうにたくさんの人で作られるので、そのチームをまとめるような仕事です。

──いつもは何人くらいの人といっしょに仕事をされてるんですか?

外資系の企業なので、グローバルではもっと大きいんですけど、日本で言うとプロジェクトのチームは30~40人ぐらいですかね。メンバーは、本当にいろんな人がいて、クリニカルサイエンスという分野に関わる医者の方、統計の専門家など、各分野の専門家がチームに加わっています。

──ご自身が知らない分野のことも含めてチームをまとめていかないといけないということですね。かなり難しそうですが、どういうことに気をつけて、お仕事されていますか。

プロジェクトマネジャーの成果って、やっぱりチームだと思うんですね。みんなが気持ちよく働けて、各専門分野の人がほぼ100%の力を発揮できて、プロジェクトが前に進んで、患者さんに薬を届けるということ。それがプロジェクトマネジャーの成果だと思うので、「チームがうまく働けるように」というところを意識しています。

──製薬のプロジェクトって、始まりから終わりまで、どんな感じで進んでいくんですか?

まず、製薬は動物実験の期間がもちろん長いんですけど、臨床に進んでからも長くて、八年ぐらいはかかるんですね。また、臨床に移ってからも、実験を進める中で多くの薬が、実験結果が良くなくてドロップアウトしていきます。なので、その薬が実際に販売されるところまで自分が関われるというのは、なかなかできない経験なんです。

研究所やベンチャー企業、またはアカデミックな分野の人が、薬のタネとなる化合物を作るところがスタートになります。そして、それを使って製薬企業が薬の開発を始めていきます。最初は薬のタネとなる化合物のプロファイルを見て、どんな薬にするか、たとえば「こんな患者さんを対象にしよう」といったことを決めていきます。

例えば肺がんと言ってもいろんな種類があるので、「初回の治療にしようか、それとも2回目に治療する患者さんを対象としようか」とか。または、肺がんだと遺伝子変異もいろいろあるので、「どの遺伝子変異の患者さんを対象にしようか」とか。決めることはいっぱいあるんですよね。「毎日投与にしようか」とか、「何歳から導入しようか」とか。そういうところを、いきなり「エイヤ」で決めて患者さんに使ってもらうわけにいかないので、一番良い使い方を確認したり、または実証したり、というための臨床試験が大体8年間かかります。

製薬企業に入るには?

──始めからプロジェクトマネジャーの仕事をされてきたんですか?

最初はオペレーションの現場にいました。病院の先生のところに行って、「こういうデザインの治験をしたいんですけど」「どうやったら薬を一緒に開発できますか」みたいな話をする仕事だったんです。その後、いろんな部署を経てプロジェクトマネジャーになりました。

※ 治験とは:「くすりの候補」の開発の最終段階で、健康な人や患者さんの協力によって、人での効果と安全性を調べる試験。病院で行われるため、医師の協力も必要になる。

創薬の体制は研究開発と営業と、大きく2つに分かれていますが、研究開発の中でも、治験は自分たちではできないので「いっしょに治験をしましょう」という契約を病院のドクターと結んでいきます。そこのつなぎ役のような役割を果たすために、現場で働く研究開発の人もいるんですよ。

──製薬企業に入るには、薬剤師の免許が必要になるんですか?

それは求められないですね。私も多くの人が病院とか調剤薬局で働くものだと思ってたんですけど、薬をつくる製薬企業の仕事もあって。製薬企業では、大学院卒業までは求められますけど、薬剤師の免許は必須ではないです。

──新卒のときに入社した会社を選んだ理由って、なんですか?

そうですね、大学受験のときまで遡ると、私もともと医者になりたかったんですよね。でも大学で医学部に入れなくて、薬学部に入りました。大学に入った後も、医学部に編入しようか考えていたんですけど、担当教室の教授から

「薬を作り上げるってのもいいぞ。医者だと自分の目の前の患者さんしか救えないし、その数は限られる。けど、もし薬なら世界中の人に届けられるし、自分が死んだ後もその薬は残って患者さんを救えるかもしれない」

みたいな話を聞いて。そういう考え方もあるんだと思って、医学部の編入はやめて、そのまま薬の研究開発の道に進もうと思いましたね。

──その担当教官の一言が人生において、大きな意味を持ったということですね。

そうですね。聞いた時はそこまで深く刺さらなかったんですけど、その後自分の進路を決める時になって思い返して。そういった意味では、だんだん影響力が出てきたように思います。

なぜ日系企業の研究開発を選んだかという話に戻ります。正直、製薬企業の研究開発職ってけっこう狭き門で。私が就職活動中は、そもそも日本にある製薬企業は多分40社ぐらいしかなかったと思います。もちろん、それらの企業には全部エントリーシートを出していました。

それで一番最初に内定をもらったところに決めました。他にもいくつか面接が続いている会社はありましたけど、当時の古い習慣で内定をもらうときに担当教室の教授の推薦状が必要で、教授の推薦状はいっぱい出せるものじゃないので、最初のところに決めたということです。

──特に「この会社」というこだわりがあったというより、「製薬企業」に行こうという考えだったんですね。

そうですね。働いてみて思ったんですけど、やってる仕事って、どの会社も同じなんです。というのも、薬機法という法律があって、それに則って薬を開発しないといけないので、基本的にやる仕事はいっしょで。極端な話、私が来週から違う会社で働いて下さいって言われても、多分同じ働き方ができるんですね。

もちろん会社によって注力している領域は違います。例えばガンをメインにしてますとか、生活習慣病をメインにしてますとか。あとはもちろんビジョンとか理念は違いますけど。やってる仕事は変わらないかなというイメージです。

【運営団体 NPO法人アスデッサンについて】
一人ひとりが自分らしい未来を描ける社会を目指し、2011年より活動する教育系NPO法人です。
多様な大人との関わりを通じて、全ての中高生の可能性を拓くことをミッションに掲げ、中学校・高校への社会人講師派遣による出張授業や、多様な大人の生き方に出会えるWebサービスの運営など、キャリア教育支援活動に取り組んでいます。

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