日本と世界をつなぐ仕事
K.Sさん
高校卒業後、韓国から日本へ留学。日本の大学を卒業後、そのまま日本で働き続け、現在はインバウンドマーケティングをされています。
インバウンドマーケティングってどんな仕事?
── まずは、簡単に自己紹介をお願いできますでしょうか。
僕は韓国人で、高校卒業までは韓国にいて、卒業してから日本に来ました。そのときは、全然日本語もしゃべれなかったので、まずは日本語学校で2年間日本語の勉強をしました。そのあと日本の大学へ入学して、大学卒業後は「人に寄り添う仕事」がしたいと思ったのと、社風が良かったのもあり、今の会社に入りました。現在は新規事業として立ち上がったインバウンドマーケティングを担当しています。
── ありがとうございます。インバウンドマーケティングとはどんな仕事なんでしょうか。
外国人の方に日本の魅力を伝えて、日本へ来てもらえるように広告・プロモーションする仕事ですね。外国人が日本で旅行をするにあたって知りたい情報だったり、こういうことを知ったらもっと日本に来たくなるんじゃないかといった情報を伝えることで、日本でより楽しい体験ができるように取り組んでいます。
── そういう意味だと、世界中に向けて発信しているのでしょうか。
そうですね。やっぱり一番多いのは英語ですが、中国、韓国、台湾、最近だとベトナム、タイ、インドネシアなどにも発信しています。いわゆるデジタルマーケティングで、Web上で広告を出したり、動画を制作して動画サイトで配信したり。Webサイトを持っていない自治体さんのアピールをする場合は、1からWebサイトを制作するといったこともしています。
── インバウンドマーケティングの楽しさや魅力は、どういった所にありますでしょうか。
日本で当たり前に捉えられている文化や物事が、海外からするとこんな風に映るんだとか、こういう価値があるんだとか、そういうことが分かるとすごく面白いですね。身近なところにあるものにこんな価値があるんだとか、こういう見方があるんだとかに気づくと、自分の勉強や気づきになって楽しいですし、自分が伝えたい日本の良さや、自分が捉えた日本の姿が外国人に伝わって、日本の魅力に気づいてもらえると嬉しいですね。
日本にはこんな良さがあるんだとか、また日本に来たくなったとかの反応を見ると、自分が日本で感じたものがこの人にも伝わったんだというのを実感して、すごくやりがいを感じます。
── 話せる範囲でかまわないのですが、具体的なエピソードなどあったりしますでしょうか。
例えば、気仙沼に取材に行ったことがあります。津波の被災地なんですが、インバウンドに向けて発信したいという意欲が強かったんです。そこで、何がアピールポイントになるのかインタビュー形式でヒアリングをしてみたんですが、正直あんまりないかも、みたいな話になって(笑)。リアス式海岸で海がきれいというのが売りなんですが、日本の別の海を見せても外国人には分からないんじゃないかとか。
── 確かに、その地域ならではのアピールポイントってかなり難しいですよね。
ただ、色々聞いていくと、津波が来たとしても気仙沼で生活を続ける人たちの強さが魅力なんじゃないかと思うようになったんです。津波が来たところで生活するのはとても大変なことで、また来るかもしれないけれども、そこに住み続けている人たちがいて。実際、他の地域に引っ越する方もいるそうですが、やっぱり生まれ育った故郷への思い入れがありますし、津波で被害を受けた一方で、海と一緒に育ってきて海に生かされているという気持ちがあったり。簡単に手放せるものではないんだなと勉強になりました。
インタビューの後には、地域の方に「話を聞いてくれてありがとう」とお礼を言われて、仕事を通じて地域の人たちにも喜んでもらえるんだなと嬉しくなりました。一緒に取材をした外国人ライターの方も、地域の人々の力強さに感動していて、英語が通じなくても外国人には受けるんじゃないかと手ごたえを感じました。通常は、神社などの観光スポットをアピールポイントにすることが多いんですが、気仙沼に関してはそこで生活する「人」に魅力がある、という点を発信することに決めました。
── いわゆる観光スポットのアピールだけでなく、地域の生の声を拾い上げたんですね。今度は逆に、つらかった経験などはありますか。
観光地と観光客の思惑の違いを感じることはありますね。例えば、地域の方がアピールしたいポイントと外国人に受けるポイントが違うことがあるんです。観光客の立場からすると神社の写真をとりたいんだけど、地域の方からすると難しかったり。地域の方からすると、過去に偉い人が尋ねた名所であっても、外国人からするとそれは分からなかったり。
基本的には、観光地から依頼を受けて広告を打つ形になるんですが、それぞれの思惑を伝えて理解してもらうのが難しいですね。ただ、観光地にも外国人目線が大事だという考えは広がってきています。外国人を招いたセミナーも開いていて、少しずつギャップも埋まりつつあると思っています。
韓国の高校生ってどんな生活をしているの?
── 韓国から日本に来られて長いと思いますが、中高生のときは韓国で生活していたと思います。漠然とした質問になりますが、Kさんはどんな中高生でしたか。
勉強はそこそこできました。でも、そんな一生懸命でもなかったですね。遊びもしましたし、うーん普通の高校生という感じですかね。
── すごく偏見なんですが、韓国はすごく受験が厳しい印象があります。ずっと勉強しているような感じでもないんですか。
そういう意味だと、ずっと勉強はしてました。高校は朝8時から始まって、途中で休憩はあるんですが、夜10時まで高校にいるような生活でしたね。授業と自習を合わせて1日12時間くらい勉強してました。
── それは、高校に朝8時から夜10時までいるってことですか・・・?
そうです。学校で朝8時から始まって18時まで授業があり、夕飯を食べた後に19時~22時まで自習時間や補講があるような感じですね。途中で息抜きはしますけどね。今考えるとすごい生活です。
── すごいですね。つらくはなかったんですか。
そこは日本と本質的には変わらないと思っていて。勉強しなさい、と言われている時間が長いだけ、という感じです。皆さん机に座っている時間中ずっと勉強しているわけではないと思うんですが、韓国も同じで、ただ座っている時間が長いだけという気がします。できる人はすごいですが、勉強があまり面白くないというのは一般的に同じですし。受験に対する期待値であったり、周りの雰囲気だったり、文化は違うかもしれませんが、根本的には変わらないと思います。強い部活でも弱い部活でも練習そのものは皆つらいんじゃないかと思います、環境が違うだけで。
── そこまで勉強をするモチベーションは何かあったんでしょうか。
いい学校に入れば、いい会社に入れて、異性にモテるようになる、といったことくらいがモチベーションって感じで、一般的なステレオタイプでした。これで韓国の株が下がると本意ではないですが(笑)。部活を頑張るのと変わらないと思います、韓国は部活を頑張る文化がないので。
── 日本でも一般的な考え方なので大丈夫だと思います(笑)。高校を卒業してから日本へ来られたというお話ですが、何かきっかけがあったんでしょうか。
格好良い理由はあんまりなかったです。父の仕事の関係で可愛がってくれる人がいて、日本への留学に興味があればと言ってくれたので。高2の時だったんですが、留学はかっこいいし、日本にも興味があったので留学を決めました。表向きには、日本の方が経済的・社会的に進んでいる面があったり、高齢化の面でも韓国が同じことになると思うので日本で勉強したら韓国に活かせる面もあるのでは、といった理由があったりしました。
── 日本語を話せない中で留学を決めたのはすごいです。私だったら、言葉が通じないのが怖くて中々踏み出せないです。ちなみに、Kさんは文系と理系のどちらでしたか。
僕は文系でした。
── 文理の選択で迷ったりしましたか。
迷いましたね。工学系のエンジニアとかに興味があったんですが、高校の時に物理があまりにも苦手で。ただ本を読んだり言葉を使ったりするのが好きだったので、文系にしました。あまり深くは悩まなかったですね。
── 得意な科目、不得意な科目ありますもんね。
そうですね。
── 大学の学部はどこだったんですか。
経営学部でした。
── 学部を決めるにあたっての決め手はありましたか。
大学を決める時もやりたいことは定まってなかったんですが、世の中や会社にかかわることを広く学びたいと思ったときに経営学部が一番合っていそうだと思いました。あとは、より実践的なことを学びたいとも思っていたんですが、文学部や社会学部は少し実践から遠いのではないかと思ってしまっていたので、経営学部を選びました。今思い返すと別に社会学部でもよかったのかなとも思います。結局、面白くて勉強になることなら何でも糧になると思います。
── やりたいことは決まっていなかったという話ですが、漠然としたものでもよいので、中高や大学で将来の夢や目標などはありましたか。
中高のときはなかったです。今も明確にはないんですが。でも、大学卒業する頃くらいから、夢や大きい目標をずっと持っている人がすごいんであって、そういうものを持っていなくても活躍したり、良い人生が送れたりするんじゃないかと思うようになりました。
── というと?
中高生の時は、夢や目標がないことが怖いことだったんです。周りから持て持てと言われますし。色々メディアでも、例えばオリンピックに出た選手は学生時代から凄かったとか書かれていて。ただ、以前にオリンピックの金メダリストと話す機会があって、なんで金メダルを取れるまでになれたんですかと聞いたら、やってることを続けたらこうなっただけなんです、みたいな反応で。
あぁ、あんまり夢とかではなかったんだと思いました。それで別に夢とかはなくても良いんだと思いなおしました。結局は自分次第で、やりたいことはその場でその場で何かしらあることで。遊びたいもモテたいも一種のやりたいことですし。もちろん、夢を持つのはとても素晴らしいことですが、そういう一つ一つを積み重ねていけば、大きいことにはならなくても、良い人生が送れるんじゃないかと思っています。
── そうですね。私も何か夢が昔からあったわけではないですが、自分の人生には満足しています。夢がある人の方が少ないんじゃないかと思います。
ただ、振り返って考えてみるのは大事かなと思います。何かの素質や価値観があって、今現在の道を歩んでいると思うので、何かしら自分なりの振り返りをしてみるのは良いんじゃないかと思います。
僕自身も、今の仕事や会社を選んだのは、振り返ってみると「人に寄り添う仕事がしたい」という思いがあったからなんです。最初の仕事はインバウンドマーケティングとは違って、お客さんのイベント企画だったり、社内広報を手伝う仕事をしていたりしましたが、お客さんに寄り添いながら悩みを解決していく点は、インバウンドマーケティングとも共通していました。今も仕事とは別でキャリアコンサルタントの勉強もしています。
自分自身のことを振り返ってみると、自分の軸が分かるかもしれません。
大人も子供も迷いながら進んでいく
── キャリアコンサルタントの勉強をしているとのことですが、何かきっかけがあったんでしょうか。
元々、会社に頼るようなキャリアにしたくないなという思いがありました。また、人事や経営に興味があって。ちょうど2016年にキャリアコンサルタントが国家資格になって盛り上がっていたので勉強をしている形です。あまり活用しきれてはないですが(笑)。
── 「人に寄り添う」ということが軸になっているというお話でしたが、キャリアコンサルタントもキャリアに関する悩みを解決するものだと思うので、やっぱり軸みたいなものがある印象を受けました。
もしかしたら裏返しなのかもしれません。自己評価ではあんまり人に寄り添えるタイプではないんですよね。人間関係とかあまり得意でないですし、あまり自分から誘うタイプでもないですし。それもあって、コンプレックスとまでは行かないものの、上手くなりたいけど上手くなれないみたいなものを克服したいという気持ちがあるのかもしれません。
── 今後、こういった仕事をしていきたいとかはありますでしょうか。
仕事でなくとも、日本と韓国を何とか仲良くできるようなことをしていきたいと思います。個人単位ではお互い仲が良いのに、表面上は仲が悪いようになっているのが個人的に不満で。人と人がつながっていないだけだと思うので、そこに何かできたら良いなと思っています。
── 最後に、中高生に向けたメッセージをお願いします。
僕は中高生でも子供ではないと思っています。自分なりに考えて自分の中での正解はあるものの、悩みや迷いが多い時期なんだと思います。難しい時期だと思いますが、そんな中でも、やりたいことをやって、将来のことを過度に恐れないでほしいと思います。
夢や目標がないことが悪いことではないです。自分が何か頑張れていない不安とか、もっとこうなりたいのに、とかの思いがあるときに役立つものが夢や目標というだけだと思います。今の自分にモヤモヤや不安がある場合には、払拭して自分を動かすための一つの手段として考えてみたら良いと思います。
目標がないことが不安なのではなく、目標のある周りの子たちより頑張れていないとか、そういったモヤモヤが不安につながっているんじゃないかと思うので、自分に素直になって、内面を見つめなおしたら、新しい発見があるんじゃないかと思います。そういう意味では、大人も同じ悩みを抱えていると思っていて、大人も中高生も変わらないと思います。これから一緒に頑張っていきましょう。
【運営団体 NPO法人アスデッサンについて】
一人ひとりが自分らしい未来を描ける社会を目指し、2011年より活動する教育系NPO法人です。
多様な大人との関わりを通じて、全ての中高生の可能性を拓くことをミッションに掲げ、中学校・高校への社会人講師派遣による出張授業や、多様な大人の生き方に出会えるWebサービスの運営など、キャリア教育支援活動に取り組んでいます。
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日本中の大人と話そう!中高生向けオンライン授業「ミライドアプロジェクト」
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